
ポリコレとは?意味や炎上した事例、採用で気をつけたいポイントをご紹介
あなたは「ポリコレ」という言葉をご存知ですか?
よくSNSを利用する方なら目にしたことがあるかもしれません。
令和時代を生きる人事、いえ社会人として知っておきたい重要キーワード、それがポリコレです。
パリコレが「パリ・コレクション」ならポリコレは…「ポリネシア・コレクション」!?
と思った方、残念ながら今回はそのようなオシャレで華々しい内容にはならないようです…。
ぜひポリコレを知らない周りの方との日常会話のネタにぜひお使いください。
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ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)の意味・歴史とは
ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)の意味
ポリティカル・コレクトネス(political correctness)とは、政治的/社会的に公正中立であるという考え方や概念のこと。直訳すると「政治的正しさ」。
その意味合いの幅が広がって行き現在では、人種や民族、性別、性的指向、身体障がい者など偏見、軽蔑、差別の対象となりうるグループについて語るさいに、人々の不快感を最小限にすることを意図していると思われる表現を使用することを指す場合にも使われるようになりました。
【海外でのポリティカル・コレクトネスの例】
【意味】 |
【ポリコレ前】 |
【ポリコレ後】 |
白人 |
white |
Caucasian |
黒人 |
black negro |
African American Coloured |
ネイティブアメリカン |
American Indians red Indians |
native Americans |
消防士 |
fireman |
firefighter |
警察官 |
policeman |
police officer |
目が不自由な人 |
blind/ going blind |
visually impaired |
耳が不自由な人 |
deaf/ going deaf |
hearing impaired |
そしてポリティカル・コレクトネスは基本的にポリコレやPCと略されます。(以下「ポリコレ」という)他にも政治的妥当性、政治的公正、政治的適正、政治的正当性、政治的正義というような表現も用いられます。
「差別しない、中立的な表現を使うポリコレの考え方って大切だよな」
…と思う方もいるかもしれませんが実は地球上では、度を越えたポリコレに対する圧力がSNSでたびたび炎上を起こしています。
それが原因で言葉の使い方を変えることで、人々の認識や信念を変え、良い影響を与えられるという考え方を揶揄する意味でこのポリコレという言葉がしばしば使われることもあります。
ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)の歴史
ポリコレという言葉自体は20世紀初頭、諸外国の政治活動のなかで政策と原則の遵守(政治的正しさ)を人々に求めるために使用されていました。
そこから現在の意味でのポリコレを人々が意識し始めるのが1950年~1960年代。アメリカの黒人たちが公民権の適用と人種差別の解消を求め公民権運動をしました。当時のアメリカでは黒人と言うだけで職につけなかったりバスに乗れないのは日常茶飯事。そうした偏見を無くそう、というのがもともとポリコレの根幹の部分にはあったのです。
しかし1970年~1980年代にはアメリカの新左翼、フェミニスト、革新主義者たちが社会変革のために努力している自らの正統性を守るためにポリコレという言葉を使い始めます。
その後1990年代には有名人の著書やニューヨーク・タイムズ紙でもポリコレという言葉が取り上げられるようになり公共の場にも浸透し始めます。
そして2015年の8月にアメリカで開催された第1回共和党大統領討論会にて、当時の大統領候補者ドナルド・トランプ氏の
"I think the big problem this country has is being politically correct,"
(この国が抱える大きな問題は、ポリコレだと思う)
という発言がポリコレによりちょっと過激なことを言いたくても言えず日々ふつふつとしている層にヒットし彼は支持を集めます。その後ポリコレはアメリカで一時期流行語にもなり、2021年現在もなお討論されています。
「いつから日本でポリコレという言葉が広がり始めたのだろう」
と思う方もいるでしょう。日本でポリコレという言葉が注目され始めたのは2016年11月のアメリカ大統領選挙以降です。Googleでのポリコレの検索数が急上昇し、その後はじわじわ検索され続けています。
(参考:2021年2月,GoogleTrends調べ)
2020年6月~7月にも爆発的にポリコレが検索されています。その原因も含めて、ポリコレで炎上したさまざまな事例をご紹介いたします。
ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)で炎上した身近な事例
サービスの提供側がポリコレを意識しすぎて炎上してしまった事例を2件、消費者側が「ポリコレの意識が足りない」と企業に投げかけをして炎上した事例を1件ご紹介します。
ポリコレの炎上事例はどれも過激なものなので苦手な方は目次から「3.人事として気をつけるべき…」に飛ぶことをオススメします。
『The Last of Us Part II』(Naughty Dog)
『The Last of Us Part II』(以下「ラスアス2」という)とはPlayStation 4用のアクションアドベンチャー/サバイバルホラーゲームです。アメリカのゲーム会社・Naughty Dog(ノーティードッグ)が開発し2020年6月12日にSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)より発売されています。
なぜラスアス2がポリコレで炎上してしまったのでしょうか。(※少々ストーリーのネタバレがございますのでお気をつけください。)
まずはその前作である『The Last of Us』をご紹介したいのですが、そのストーリーは
舞台はアメリカ。謎の寄生菌によって人類は絶滅の危機に瀕していた。
感染者と生存者。この世界で生きること。
それはこの2つの脅威と常に戦うことを意味している。生きるために愛を捨てた男(ジョエル)と愛を知らない少女(エリー)の旅がいま、はじまる。
(引用:『The Last of Us』公式HP)
…いわゆる「ゾンビゲー」のようなものです。2013年に発売され、そのリアルな映像による没入感とストーリーが評価され、2018年6月時点で累計1700万本以上の売上本数を達成している人気タイトルです。
その続編が7年の歳月を経て新発売されるということで「これは神ゲーに違いない!」とファンの期待が大きく膨らみます。しかし待望のラスアス2が発売されますが、
- 開始3時間程で前作の主人公ジョエルがあっけなく死んでしまう
- ジョエルを殺害したアビー(屈強な体つきの女性)とエリーのW主人公になる
- エリーはレズビアンであり、バイセクシュアルの女子ディーナと親密な仲に
- トランスジェンダーの少年・レフの存在
- その他、多様な人種のキャラクターの登場
といった前作のストーリーからのギャップと開発側の「今どきの社会の多様性とLGBTQに配慮しました、素晴らしいでしょ?」アピールにファンは失望してしまったのです。そして海外の有名ゲームレビューサイト・Metacriticのユーザー評価は一時的に10点満点中3点台まで落ちました。ラスアス2のプレイ動画や評価もYouTubeに投稿され、中にはラスアス2のポリコレ問題に関する動画をアップするユーザーも。
日本では海外のラスアス2の騒動によりGoogleでのポリコレの検索数は急上昇。ポリコレの検索数はトランプ氏の大統領選挙時を倍近く上回り多くの注目を集めました。
(参考:2021年2月,GoogleTrends調べ)
気になる売上ですが、多くのファンの反感を買い炎上している裏でラスアス2は
『The Last of Us Part II』の販売数が2020年6月21日現在で400万本を突破し、ソニーのPS4独占タイトルとしては過去最速の売り上げ
(引用:IGN Japan,『The Last of Us Part II』がソニーのPS4独占タイトルとして過去最速の売り上げを記録)
を記録します。
そしてその後ラスアス2はその年の優れたゲームソフトを表彰する「The Game Awards 2020」にて史上初となる7部門を制覇しGame of the Yearを獲得。
「メディアによる不正行為があったのではないか」と再炎上し2021年2月現在もネット上ではラスアス2について討論されています。
どうやらポリコレによる炎上は儲かるようです。
『動かしつづける。自分を。未来を。』(ナイキジャパン)
『動かしつづける。自分を。未来を。』とは2020年11月18日にナイキジャパンが公開したCMタイトルです。
このCMのコンセプトは
・前向きな変化を促すスポーツの力を賞賛し、日本の全てのアスリートたちが直面するバリアを打ち破ることを目的とするフィルム。
・スポーツが若者に自らが望む変化を生み出し、未来を形成していく力をもたらす様子を力強く描いている。・実在のアスリートの証言をもとに作られている。
(引用:Nile Japan, ナイキ、新しいフィルム「動かしつづける。自分を。未来を。」発表)
というもの。日本における人種差別というセンシティブな内容が題材になっており、サッカーを通じて乗り越えていく少女たちの姿を描いています。
なぜこのナイキジャパンのCMが炎上してしまったのでしょうか。炎上してしまった点をまとめると以下のとおりです。
- (日本では一切差別が無い、という極論ではなく)あたかも日本人だけが差別しているかのようなCM構成になっている
→日本人の学生全般が差別している事実はないのに、グローバル企業のナイキがこのような内容のCMを発信するのは問題ではないか - CMに登場する金さんは実際には日本の学校ではなく朝鮮学校でいじめを受けており内容が捏造されている
→ナイキが朝鮮総連の協力を仰いでいた - ナイキはウイグル人の強制労働事件を起こし問題となっている
→それにもかかわらず差別問題を商業目的に利用している。別の話題を作り論点ずらしをしようとしているのではないか
そしてTwitter上でもさまざまな意見が飛び交います。
なかには「あきらかに賛否両論を呼ぶことを意図して作られたCMだ」という意見もあります。
というのもナイキは「差別に立ち向かう、乗り越える」というテーマにこれまでも取り組んでおり、今回のこのCMが初めてではないのです。
【ヒジャブ(肌を隠す布)を外し、肌を露出してスポーツをするイスラム人女性たちのCM】
【人種差別に膝つき講義をし、早期契約終了されてしまったキャパニック選手のCM】
これらのCMも同様に炎上しています。ですがキャパニック選手のCMに関しては24時間で4300万ドル(約47億5000万円)相当のメディア露出価値を生み出し、直後ナイキは史上最高値の株価である86.06ドル(約9638円)を更新します。
ここまでくるとサービスの提供側がポリコレによる炎上商法に味を占めてしまっている可能性も否定できません。
さて次は打って変わって企業側が知らずしらずのうちにポリコレに配慮していない表現方法をし炎上してしまった事例です。
『お母さん食堂』(ファミリーマート)
『お母さん食堂』とは2017年頃から登場したファミリーマートオリジナルのお惣菜ブランドです。
お母さん食堂は、「家族の健やかな生活」を想って作った、
美味しくて安全・安心な食事と食材を提供するブランドです。
お客さまにとって「一番身近で美味しくて安心できる食堂」を目指しています。
(引用:ファミリーマート公式HP)
事の発端は2020年12月、京都府・兵庫県・岡山県に住む女子高校生3人がネット署名サイト『change.org』にて「ファミリーマートの「お母さん食堂」の名前を変えたい!!!」と題した署名活動から始まります。その署名期限は2020年12月31日、目標は1万人とされています。
そしてその要求内容とは
先日、ジェンダーや男女平等について学ぶ機会がありました。「男性は仕事、女性が家事」という考えが日本には、まだ多く残っていることを知りました。
<中略>
お願いとは「お母さん食堂」という名前を変えてほしいのです。この一つのことから始まるジェンダー問題をなくし、一人ひとりが輝ける社会をめざすような商品名に変えてほしいです!!(引用:change.org, 「ファミリーマートの「お母さん食堂」の名前を変えたい!!!」)
というもの。彼女たちは「お母さんだけが料理するものだ」という認識がついてしまい、男性が家事に非協力的になってしまう、ということを提唱しています。
その後、それはTwitterにも拡散されさまざまな意見が飛び交いました。
そしてその討論はさまざまな商品名や有名人の発言などへと飛び火していきます。2020年の年末だったので、なんと紅白歌合戦にまで影響しています。
そして最終的に女子高校生たちの署名活動は7576人という結末に終わります。これにより「お母さん食堂」に対する人々の問題意識の結果が分かり問題は徐々に鎮火していきました。(といっても2021年現在もちらほら残り火が見当たりますが。)
人事として気をつけるべきポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)とは?
2020年11月29日にネット署名サイト『change.org』にて「#就活セクシズム をやめて就職活動のスタイルに多様性を保証してください!」というキャンペーンが立ち上げられました。その要求内容は、
1,極端に二元化した男女別スタイルやマナーの押し付けをやめて、多様性のある装いのスタイルを提案してください!
2,女性はこうすべき、男性はこうすべきという偏った表現は差別や抑圧につながるため見直してください!(引用:change.org, 「#就活セクシズム をやめて就職活動のスタイルに多様性を保証してください!」)
というもの。このなかで語られている「#就活セクシズム 」とは
(就活における)「女らしく」「男らしく」「○○らしく」等と性別に基づいて固定観念を押し付けたり、性別に基づいて差別をしたりする態度
のこと。
BuzzFeed.Newsがこの署名活動を取り上げ、Twitter上で話題となりました。Twitterユーザーの意見も、
など多数集まりました。
学生や求職者の「(本当にそれが差別に当てはまるのかはともかく)性別による差別はいけないものである」というポリコレの意識も高まってきています。
人材を採用していくなか、ポリコレで会社が炎上してしまうのは避けたいと誰しもが思います。そこで採用にあたって気をつけたいポリコレのポイントをご紹介します。
求人広告で気をつけたいポリコネ
まず大前提として、男女雇用機会均等法にて、労働者の募集及び採用における性別による差別は禁止されています。求人をかけるさい、これを意識すればポリコレを守ることにつながります。
服装の指定
あなたの会社の求人には
「服装(男性: スーツ/女性: オフィスカジュアル)」
という表記はございませんか?これは男女別で条件に相違があるためNGです。
どうしても記載したい!という場合は
「スーツまたはオフィスカジュアル」
とだけ記載するのがベストです。
※あくまで求人広告内での表現方法の話なので、職種にもよりますが実際には求職者が服装を自由に選べるのが望ましいです。
職種の表現
求人広告の欄には募集する職種名を書く部分がありますが、ここにも気をつけるべきポイントがあります。
「え、差別しているつもりはないのに!」
と思っていてもNG表現を使ってしまっている…ということも。以下に例を記載しますので一度振り返ってみてくださいね。
<NG> |
<OK> |
営業マン |
営業マン(男女)
営業職、営業部員
|
ウェイター |
ウェイター・ウェイトレス
フロアスタッフ
|
カメラマン |
カメラマン(男女)
フォトグラファー
撮影スタッフ
|
ベルボーイ |
ベルボーイ・ベルガール
ベルボーイ(男女)
|
看護婦
ナース
|
看護師 |
スチュワーデス |
客室乗務員
フライトアテンダント
|
保母 |
保育士 |
主婦
ママ
パパ
|
主婦(夫)
主婦・主夫
|
(引用:厚生労働省, 『男女均等な採用選考』, P13)
男性または女性を表す名称で表示しないようにしましょう。詳細や例外事項が気になる方は厚生労働省が公開している資料をご覧ください。
他に気をつけるポイントを知りたい方は、こちらのコラムもオススメです。
採用選考時に気をつけたいポリコネ
採用選考時に求職者に対してポリコレを意識した質問をしないと就職差別につながってしまうおそれもあります。2018年にハローワークに報告があった、本人の適正・能力以外の事項を把握された不適切な事象結果は以下の通りです。
※平成30年度にハローワークで把握した938件の内訳
(▲出典:採用選考自主点検資料, P20)
「家族」に関することについての質問が約半数を占めています。もしかするとあなたも採用選考時に不適切なことを求職者に尋ねている可能性があります。こちらも例を記載しますのでチェックしてみてください。
本人に責任のない事項の把握
【聞いてはいけないこと】 |
【NG質問例】 |
本籍・出生地に関すること |
「本籍はどこですか」
「生まれ故郷はどんな場所でしたか」
※「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します。
|
家族に関すること |
「家族構成を教えてください」
「ご家族のお仕事について教えてください」 「兄弟が通う大学名を教えて下さい」
|
住宅状況に関すること |
「家の間取りを教えて下さい」
「不動産はお持ちですか」
|
生活環境・家庭環境などに関すること |
「両親のいるご家庭ですか」
「家の周辺にはなにがありますか」
※採用候補者の身辺調査をするのもNG
|
生まれや、家族構成、お金持ちかどうかなどによって就職結果が左右されるのは大問題です。
職種への適性・能力とは関係のないことは質問しないようにしましょう。
本来自由であるべき事項の把握(思想・信条にかかわること)
【聞いてはいけないこと】 |
【NG質問例】 |
宗教に関すること |
「家の宗教はなんですか」 |
支持政党に関することの把握 |
「先日行われた選挙には行きましたか」 |
人生観・生活信条などに関すること |
「あなたの信条や信念は何ですか?」 |
尊敬する人物に関すること |
「尊敬する人物は誰ですか」 |
思想に関すること |
「高校生が有権者として政治活動に参加することについてどう思いますか」 |
労働組合(加入状況や活動歴など) 学生運動などの社会運動に関すること |
「労働組合や学生運動に参加しましたか」 |
購読新聞・雑誌・愛読書 などに関すること |
「あなたの購読新聞や愛読書があれば教えてください」 |
思想や信条にかかわることを採否の判断基準にすることは憲法上の「思想の自由(第19条)」「信教の自由(第20条)」などの規定の精神に反することになります。
選挙での投票行動などの政治的な活動に関する質問も「思想・信条にかかわることの把握」につながるため面接の話題としては適切ではありません。
ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)とは誰かをけしかけるためのものではない
いかがだったでしょうか。ポリコレについてかんたんにまとめると
ポリコレとは
- 政治的/社会的に公正中立であるという考え方や概念のこと
- それが転じて人種や性別などで差別的な表現はしないことを意味するようになる
- 行き過ぎたポリコレ圧力が蔓延り、差別的な表現はしないことを揶揄する意味でも使われる
2021年現在、「それは中立ではなく差別的な表現だ」となんでもかんでも文句をつける行為のことを「ポリコレ棒で殴る」と呼ぶこともあります。
たしかにポリコレ棒で殴りかかってくる人の言い分もわからないものではありません。しかしポリコレの問題点は
「私はこの表現は差別的だと思います」
「あなたもこの表現が気に入りませんよね?」
「すべての人間が気に入らないと言うべきだ!」
というように「個々人の感情論で定義や歯止めが際限なくそれが拡大していく」こと。そして「一方的に相手をけしかけるための道具になってしまっている」こと。
果たしてそれは本来のポリコレの目的である、差別や偏見を減らすことにつながっているのでしょうか?
それぞれの「社会的正義」の奥にある「真実」を見通す能力が試されています。